この記事はThe Wealth Report 2025 (19th edition) - The global perspective on prime property and investmentを参考文献として執筆されました。
不確実な時代の富裕層戦略:Knight Frank Wealth Report 2025が読み解く針路
激動する世界情勢の中で、世界の富裕層(HNWI)はどのように資産を運用し、どのような未来を描こうとしているのか。Knight Frankの「The Wealth Report 2025」は、彼らの投資戦略、特にプライム不動産とラグジュアリー市場の最新動向、そして次世代の価値観の変化を詳細に分析。不確実性の中に潜むリスクと機会を明らかにし、これからのウェルス管理と投資の針路を示します。
刻一刻と変化するグローバル経済の荒波の中、世界の富裕層(HNWI)はどのような航路を選ぼうとしているのでしょうか。Knight Frankが毎年発行する「The Wealth Report」は、その羅針盤となるべく、膨大なデータと専門家の洞察に基づき、プライム不動産と投資の世界の現状と未来を克明に描き出しています。最新版である2025年版から、世界の富裕層を取り巻く環境、彼らの投資戦略、そしてラグジュアリー市場の最新動向を読み解き、これからの針路を探ります。
グローバルウェルスの変遷:米国健在、アフリカ台頭
The Wealth ReportのWealth Sizing Modelは、世界の富裕層人口と資産規模の進化を追跡しています。2024年には、純資産1,000万ドル以上の個人が4.4%増加し、回復基調が鮮明になりました。特に米国は圧倒的な存在感を維持し、世界の富裕層の約40%が居住しています。これは、米国経済の堅牢さと、テクノロジーセクターを中心としたウェルス創出の加速を反映しています。しかし、その陰でアジア、そして特にアフリカが新たな成長拠点として急速に台頭しています。若い人口構造、豊富な天然資源、インフラ改善が追い風となり、未来のウェルス創出を牽引する潜在力を秘めています。
同時に、世代間の富の移転、いわゆる「The Great Wealth Transfer」が本格化しています。ベビーブーマー世代が依然として資産の大部分を保有していますが、Z世代やミレニアル世代が意思決定に関与する度合いが増しています。彼らの価値観や優先順位の変化は、投資戦略、特にサステナビリティや社会貢献への関心の高まりとして現れ始めています。こうした価値観のシフトは、今後の投資対象や戦略に大きな影響を与えるでしょう。

不動産投資への揺るぎない引力:ファミリーオフィスの戦略
私たちのファミリーオフィスを対象とした調査、「The Knight Frank 150」は、富裕層が不動産への露出を拡大することに強い意欲を持っていることを明らかにしました。調査対象のファミリーオフィスのポートフォリオにおいて、直接投資不動産は株式や現金に次ぐ主要な資産クラスであり、約44%が今後18ヶ月以内に不動産への投資を増やすことを検討しています。
その投資戦略は多岐にわたりますが、Opportunistic、Value add、Coreといったリスクレベルに応じたアプローチが見られます。多くのファミリーオフィスにとって、不動産投資は中長期的な視点で行われ、主にCapital growth(資産価値の上昇)とWealth preservation(資産保全)を目的としています。不確実性の時代において、有形資産である不動産は、ポートフォリオの安定化に貢献する魅力的な選択肢であり続けています。ただし、高い建築コストや金利の変動は依然として懸念材料であり、投資家は慎重な姿勢も見せています。
熱狂と調整が交錯するプライム住宅市場
Knight Frank Prime International Residential Index(PIRI 100)は、世界のトップ100のラグジュアリー住宅市場における価格変動を追跡しています。2024年には平均で3.6%の上昇を記録しましたが、市場間でのばらつきは大きくなっています。過去5年間を振り返ると、ドバイ(+147%)、マイアミ(+84%)、アスペン(+73%)といったサンベルト市場が驚異的な価格高騰を見せました。これらの地域は、働き方やライフスタイルの変化、そして新たな富裕層の流入によって牽引されています。
サンベルト市場とは
米国の南東部および南西部の暖かい気候の地域にある都市の不動産市場を指します。近年、パンデミック後のリモートワークの普及などにより、人口流入と不動産価格の上昇が顕著になっています。
一方で、ロンドン(-1%)、ニューヨーク(-0.3%)、香港(-2.2%)といった主要なハブ市場は、パンデミック以降、回復に苦慮しています。高い金利、在庫の変動、そして地政学的な不確実性が影響を与えています。しかし、これらの市場も価格調整が進み、購入者にとって魅力的な機会が生まれつつあります。レポートでは、各地域の詳細な動向と、2025年に注目すべき「ホットな住宅市場」を特定しています。価格の伸びが鈍化する予測の市場もあれば、堅調な成長が見込まれる市場もあり、綿密な市場分析の重要性が増しています。
Super-prime(スーパープライム)とは
Knight Frankのレポートでは、主に純資産1,000万ドル(約15億円)以上の富裕層が投資する超高級住宅市場を指します。これらの物件は一般的に価格帯が高く、市場の動向が富裕層の活動に強く連動します。
商業用不動産市場の新しい現実と隠れた機会
金利の上昇と経済の不確実性は、世界の商業用不動産(CRE)投資量に大きな影響を与えました。2023年には43%の落ち込みを見ましたが、2024年には8%回復し、持ち直しの兆しが見えます。この回復を牽引しているのが、プライベート資本です。レポートでは、オフィスやリテールといった伝統的なセクターに加え、Living(住宅、学生寮、高齢者向け施設など)、Industrial/Logistics(物流施設)、Data centres(データセンター)といった分野への関心が高まっていることを指摘しています。
プライベート資本とは
政府や金融機関ではなく、個人やファミリーオフィス、プライベートエクイティファンドなどが持つ資金のことです。近年、グローバルな不動産投資市場でその存在感を増しています。
オペレーショナル不動産とは
単に空間を貸し出すだけでなく、運営サービスと一体となった不動産のことです。ホテル、学生寮、サービスアパートメント、データセンターなどが含まれ、テナントの利用体験やビジネスモデルに不動産が深く関わります。

未来を担う世代の価値観とライフスタイルの変化
Knight FrankのNext Generation Surveyは、世界の18歳から35歳の富裕層の優先順位と好みに光を当てています。彼らは、上の世代と比較して、より高いレベルのモビリティと柔軟性を重視しています。リモートワークは彼らの働き方を再定義し、住む場所の選択肢を広げています。特に高所得者層ほど、職場から離れた場所に住み、頻繁にリモートワークを行っています。彼らにとって、移動のしやすさとライフスタイルの質が住まい選びの重要な要素となっています。これは、従来の富裕層とは異なる、新たなライフスタイルへの適応を求める彼らの価値観を反映しています。
消費行動においても変化が見られます。彼らはモノの所有よりも体験を重視し、ラグジュアリー商品の購入においても、単なるブランド価値だけでなく、その裏にあるストーリーやサステナビリティへの配慮を重視する傾向があります。オンラインでの購入も抵抗がなく、特に価格帯が高くなるにつれて、商品の複雑性やパーソナルなサービスへのニーズから対面での購入が好まれるようになります。これは、デジタルネイティブ世代ならではの購買行動と言えるでしょう。

サステナビリティが導く投資の未来
ESG(環境、社会、ガバナンス)は、もはや単なるトレンドではなく、富裕層の資産運用と投資戦略における中核的な要素となりました。パンデミック以降、富裕層の間で気候変動への意識が高まり、不動産投資の環境への影響が重要な意思決定要因となっています。彼らは、エネルギー効率の高い建物や、再生可能エネルギーの導入といった「E」(環境)側面に加え、「S」(社会)側面への関心も高めています。
Vintage carbonとは
過去に、または将来的に削減・吸収されることが検証・認証された炭素クレジットのことです。プロジェクトの質や厳密性が重要であり、単に古いクレジットであれば価値が低いというわけではありません。
ESG(Environmental, Social, Governance)投資とは
企業の環境問題への取り組み(E)、社会的な責任(S)、企業統治(G)を評価し、投資判断に組み込む手法です。不動産においては、省エネ性能の高い建物や、地域社会との関係性などが評価対象となります。
リワイルディング(Rewilding)とは
人間活動によって失われた自然の生態系を、野生動物の再導入などを通じて回復させる取り組みです。
自然資本とは
森林、水資源、大気など、自然によって提供される資源や生態系サービスの総称です。これらは経済活動の基盤となり、価値を持つと考えられています。
具体的には、従業員のウェルビーイングをサポートする職場環境や、地域社会への貢献、公共空間の改善といった社会的な目標を投資に取り入れる動きが見られます。また、自然資本への投資、特にVintage carbonやリワイルディングといった自然再生プロジェクトへの関心も高まっています。サステナビリティへの配慮は、不動産の価値を高め、将来の規制強化や市場の変化に対応するための重要な要素となっています。これは、単なる慈善活動ではなく、長期的な投資リターンと社会貢献を両立させる戦略として捉えられています。
ラグジュアリー資産の多様化と進化する市場
富裕層の消費と投資の対象は、プライム住宅にとどまりません。スーパーヨット、プライベートジェット、クラシックカー、アート、ワイン、そして様々なコレクティブルが、彼らの心と頭脳を捉えています。レポートでは、これらのラグジュアリー資産市場の最新動向を深く掘り下げています。
スーパーヨットやプライベートジェットの大型化が進む一方、それを収容できるマリーナや空港といったインフラの重要性が高まっています。クラシックカー市場は特に活況を呈しており、オークションでの高額取引が続いていますが、その保管やメンテナンスといった実務的な課題も重要になっています。
アート市場は、オンライン化によって大きく変貌を遂げました。デジタルプラットフォームは新たなバイヤー層を呼び込み、市場の透明性を高めています。現代アート、特に若手や女性アーティストへの注目度が高まっています。ワイン市場は、パンデミック後の価格調整を経て、品質とストーリーを重視する傾向が強まっています。さらに、ポケモンカードやレアマップ、カラーストーンといった多様なコレクティブル市場も活況を呈しており、富裕層の関心が広がりを見せています。これは、伝統的な資産クラスに加え、個人の興味や情熱に基づいた投資対象が拡大していることを示唆しています。
まとめ:不確実性の中に見出す成長への展望
The Wealth Report 2025は、世界の富裕層を取り巻く環境が、地政学的な緊張、経済の変動、金利の不確実性といった多くの課題に直面していることを示しています。しかし、同時に、不動産への強い投資意欲、新たな成長地域の台頭、次世代の価値観の変化、サステナビリティへのコミットメント、そして多様化するラグジュアリー資産市場の中に、多くの成長機会が存在していることを強調しています。
変化の時代にあっても、富裕層はリスクを乗り越え、新たな展望を切り開くための戦略を模索しています。彼らにとって、単に資産を増やすだけでなく、資産をどのように運用し、次世代に引き継ぎ、社会に貢献していくのかが重要なテーマとなっています。Knight Frankは、こうした複雑な環境下において、富裕層の皆様が目標を達成し、グローバルな機会を掴むためのサポートを提供することをお約束します。このレポートが、皆様の意思決定の一助となれば幸いです。
よくある質問
The Wealth Report 2025によると、世界の富裕層人口はどのように変化していますか?
2024年には純資産1,000万ドル以上の個人が4.4%増加し、回復基調が鮮明になりました。特に米国が世界の富裕層の約40%を占め圧倒的な存在感を維持する一方、アジア、そして特にアフリカが若い人口とインフラ改善を追い風に新たな成長拠点として台頭しています。
Knight Frankのファミリーオフィス調査「The Knight Frank 150」によると、不動産投資への関心はどの程度ありますか?
調査対象のファミリーオフィスのポートフォリオにおいて、直接投資不動産は株式や現金に次ぐ主要な資産クラスであり、約44%が今後18ヶ月以内に不動産への投資を増やすことを検討しています。多くのファミリーオフィスは、不動産投資を中長期的な戦略と捉え、 Capital growth や Wealth preservation を主な目的としています。
The Wealth Report 2025で強調されている、富裕層の若い世代(次世代富裕層)の価値観やライフスタイルにはどのような特徴がありますか?
次世代富裕層は、上の世代よりも高いモビリティと柔軟性を重視しており、リモートワークの普及によって働き方や住む場所の選択肢を広げています。彼らはモノの所有よりも体験を重視し、ラグジュアリー商品の購入においてもサステナビリティやストーリーを重視する傾向があり、投資においてはESGや社会貢献への関心が高いことが特徴です。